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不思議な導き ⑪ (ショールと風になびく布 その2)

👆からのつづき😊

お話を

ショール屋さんとの出会いの日に戻します。


ある秋の日に冬支度で訪れたショール屋さん

その店主との出会いから学んだことについて。。。


彼と出会って、まず学んだことは

今まで当たりまえのように使ってきた「ショール」という言葉の語源。

実は「ショール」という言葉はペルシャ語から来ているそうです。

そして、ショールは、

ペルシャ、又はカシミール地方のいずれかが発祥の地だと考えられているそうです。



ということは、ショールが誕生したのは

今私がいるイスラマバードから少し北東に向かった地

もしくは、南西方向に向かったイラン方面。

いずれにしても、今いる地からそう遠くはない地なのです。

そうと知ったら、テンションが一気に急上昇!!


カシミール地方で育まれ、発展したショール文化はやがて

15世紀にヨーロッパに伝播し

西欧の貴族に深く愛されるようになったようです。



この時のカシミール地方のショールというのは

私が出会った「お宝ショール」のような

全面に手刺繍が施された芸術作品だったのかもしれませんね。

面白いことに、もともとショールは男性が身につけるものだったとか?

それがヨーロッパに渡ったことを機に

女性達が身につけるものとなっていったようです。



ヨーロッパに渡ったカシミールのショールは

とても珍重されたものの

極めて希少で高価なものでした。

そこで、より多くの人々が手軽にショールを求めることが出来るようにと

18世紀のスコットランドで

カシミールショールを真似た商品が

大量生産されるようになったようです。

そして、その商品が

スコットランドの「ペイズリー」という街で生産されたことから

多くのカシミールショールのモチーフとなっていた柄が

現在ではペイズリー柄と呼ばれるようになったそうです。

ちなみに、ペイズリー柄というのは👇です。

では、もともとペイズリー柄はどこから来たのでしょう?

実はペイズリー柄は、もとはペルシャの伝統的な柄で

ペルシャ語でボテ(Boteh)またはブタ(Buta)と呼ぶようです。



調べてみるとペイズリーの起源は明らかではないようですが、

沢山ある中の一つの説では

これが風に吹かれて曲がった糸杉と花束が融合した

ゾロアスター教の「生命と永遠のシンボル」であるとありました。

また、この風に曲げられた糸杉の姿が

強さ、抵抗、そして慎み深さを表現しているという解釈もあるようです。



ショール屋さんのおじさんはと言えば、

ボテは、乾いたペルシャの地でも力強く生息する樹木から由来し

「『生命の源』を表現した形なのだ」と説明してくれました。

いずれにしても、この柄は、

「生命」、「生命の源」、「永遠」といった

人間にとって根源的な意味合いを含んでいるのだと学び

この柄が、今までよりも更に好きになりました😊

そう思って、また👇をよく見てみると

一つのショールの中に、

数えられないほどの「ボテ」が描かれています。

これほどまでに、繰り返し愛用される「ボテ」のモチーフ。

人々にとっての深い願い、信仰のようなものが

込められているようにも思えてきませんか?

ペルシャでは、このボテのモチーフは

高貴な人々、貴族の間で使われた文様でもあったようです。

やがてこのモチーフが

職人さんを通じてカシミールに持ち込まれ

ショールのモチーフとなり、

様々な人の手に渡りながら

イギリス、そして広く世界に広まっていったということなのかもしれませんね。


そして、今でもあらゆる形で

世界中の人々から愛されるデザインとして

存在し続けているのでしょう。


パキスタンでも、「ボテ」柄は

定番中の定番で、プリント、刺繍を問わず

一年を通してお洋服のデザインに使われています。

パキスタンに来てからの短い間に

私のクローゼットの中にも

すでに👇これだけの「ボテ」柄が集まっていました💦

次に、「パシュミナ」という言葉に目を向けてみましょう。

厳密には、標高の高いヒマラヤ山脈に生息するヤギの毛を使って

カシミールで織り上げられたショールを

「パシュミナ」と呼んできたようです。

そして、「パシュミナ」という言葉自体は、

このショールの原材料を指す時もあれば

ショールそのものを意味することもあるようです。



店主のお話では、カシミールのパシュミナがイギリスに渡り

ヨーロッパで使われていくうちに

カシミールという単語とパシュミナが合体して

柔らかいヤギの毛を使った繊維がいつしかカシミヤと呼ばれるようになったとのこと。

つまり、店主の説明ではパシュミナとカシミヤは、

実は同じ素材を意味しているようでした。


また、「パシュミナ」は、そうした素材以外に

ショールそのものを指す言葉としても使われてきたことから

本来のヤギの毛を使って作られていない

異素材混紡のショールも、「パシュミナ」と呼ばれることもあるようです。



このパシュミナの原料となるヤギの毛

長期に渡る乱獲により

今では質の良いものを手に入れることが極めて困難になってきているようです。

そして、以前記した「リングショール」の原料シャトゥシュも

もはやその取り引きすらもワシントン条約で禁じられているようです。



ちなみに、シャトゥシュというのは、

パシュミナよりも更に細くて軽くて柔らかい

チベットアンテロープの毛なのだそうです。



パシュミナよりもさらに細い繊維から出来ているので、

大判のショールに織り上げても

「指輪の輪の中を通る」ということから

シャトゥシュで出来たショールは

「リングショール」と呼ばれていたのです。



ショール屋の店主さんと出会い

ショールのお話をうかがうことになった時

私は真っ先に

彼の中に一種の悲しみのような強い「憂い」があることを感じていました。

それが、お話をうかがっているうちに

なるほど、このように品質の高いショールの原料そのものが

年々入手困難、取引き禁止になっていることも

彼の「憂い」の原因の一つなのだと理解しました。

さらには、この原材料不足に付随して

生産者の生活、そしてショール文化そのものが

変容、衰退していることも

彼にとって大きな心の痛みになっていることも伝わってきました。


だからと言って、ショールを使う文化が廃れてきているわけではなく

むしろ、天然の極上繊維が入手困難になることと反比例する形で

ここ20年ほどの間に

ショール生産に機械化と大量生産の波が押し寄せてきたようです。


希少な原材料の穴を埋めるかのように

普通のウールに化学薬品を混ぜる技術が開発されたことによって

ウールでありながら

パシュミナに近い柔らかさのショールが誕生しているのだそうです。

そして、そうした製品が

今では「パシュミナ」の名のもとに世に出回っているそうです。

また、この他にも、アクリルを使った製品も多数登場しているとのこと。


こうした素材は、

発色も、手触りもよく、何よりも安価なので、

広く大衆に好まれているようです。

また、今の時代は、

機械を使うことにより、

伝統的なデザインや最新流行の色彩を取り入れたファッショナブルなショールが

簡単に、しかも大量に生産出来るようになっているのだそうです。

一般大衆ににとっては、

より安価かつ手軽に美しいショールを手に入れられるという

ある意味、喜ばしい時代の到来を意味しているのかもしれませんね。



けれども、他方では、大量生産を可能にする機械の出現が

かつての伝統的なカシミールショール生産を担ってきた

手染め、手織り、手刺繍の手仕事職人さん達の生活を逼迫させ

伝統的な手仕事による美しいショールの生産の衰退を招いているのです。


手仕事の価値に見合った収入を得られない職人さん達は

困窮する一方の生活に苦しみ

もはや我が子に伝統的な手仕事を伝承することすら考えられなくなっているのです。

よって必然的に、年々職人さんの数の減少は進み。。。

「もはや、いつまで手刺繍のショールの仕入れが出来るかわからないよ。」

「ここ数年、貴女に見せている質の高いショールが

シーズンに一枚手に入るかどうかといった感じになってきているんだよ。。。」と。


こうしたお話の流れを踏まえ

ショール屋の店主さんは、

お店を訪れた外国人の私に

「ショールの文化をしっかりと理解した上でショールを買いなさい」と言ったのです😢



彼が語った

「今はショール生産が機械化され

色彩豊かで見た目も良く、それなりに柔らかいショールが安価に手に入る。

けれども、そうしたものは、ワンシーズンでダメになるような品なんだよ。

それは、パキスタン人が誇る文化としての「ショール」とは違うんだよ。

それらは毎年の流行を取り入れた華やかなものかもしれないが

本当の伝統的なショールは、代々受け継がれていくようなものだ。

もっと質の高い、芸術作品なんだよ。

いくら鑑賞しても飽きないような、表情豊かな芸術なんだよ。

それが、パキスタンの『ショール』なんだよ。」という言葉は

まるで彼の「心の叫び」のようで、

深く胸に突き刺さりました。



その言葉を聴きながら

なるほど、現代のショール生産の世界も

お洋服の「ファストファッション」と同じような流れの中にあるのだと理解しました。



店主はきっと

そうした「ファストファッション」とは一線を画す

伝統的なカシミールショールが存在してきたこと

そして、そこにある豊かな歴史文化や価値について

私のような外国人にも知って欲しいと強く願っていたのでしょう。



店主が最後に見せてくれた「お宝ショール」こそが

彼が誇りに思う

「おばあさんから母へ、母から娘へ」と代々受け継がれるような

パキスタンショール文化の極みだったのです。


さて、そうした伝統的なカシミールショールには

全面であったり、部分的であったり、ボーダーだけであったりと

刺繍が施されているのですが、

この刺繍にも、いくつかの技法があります。


その中でも、代表的な技法の二つが以下の通りです。



一つは、通常私達が「刺繍」という言葉でイメージするような

色糸を一針一針、針を使って布に縫い付けていく技法。

カシミールショールの場合には、

ブロックプリントで布地にデザインの下絵を写し

職人さん達が糸の色を選びながら、

布に刺繍を施していくSozni刺繍。

この技法であれば、

より柔らかく繊細な繊維を使ったパシュミナ生地にも負担をかけずに

刺繍をすることが出来るようです。

私が見せていただいたお宝ショールは、このSozni刺繍の作品でした。

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そして、もう一つはAari embroidery、もしくはKashida Kari.

この刺繍は、柔らかい布地には向いておらず

主にしっかりとしたウール布地に施されるもののようです。

このAari刺繍では、特殊なフック様の針を使い、

糸をそのフックにひっかけながら

布に刺繍模様を施していきます。

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そして現在では、機械を使ったAari刺繍が可能になって

Aari刺繍のショールも大量生産されているようです。

こうしたAari刺繍製品は、

広く日本でも販売されているので、

皆さんも、どこかで目にされたことがあるかもしれませんね。

Aari刺繍職人さんと機械化がもたらす

切ない現実に触れることになりますが

👇で廃れ行くAari刺繍の現状がわかります。

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実は、私もネパールで暮らしていた時に

一枚のAari刺繍のショールを購入していました。

とても色鮮やかなので、なかなか出番が無くて

身に着けたことがほとんど無かったのですが

一時帰国中にクローゼットの中から引っ張りして眺めてみました。


よく見てみると

「これ、手仕事だ!?」

それがわかったのは、裏面を見た時。

隙間無くショールの布に施された細やかなAari刺繍は

一色一色の糸が職人さんの目と手によって選ばれたとしか思えないほど

色彩の変化が細やかで

私が記憶していた以上に

丁寧に刺繍が施された作品でした。


ショール屋の店主さんのお話をうかがった後だっただけに

今さらながら、このようなショールを手に入れた

若かった自分を褒めてあげたくなりました。

こうした作品を作る職人さんが減っていることも踏まえ

改めて、これを大事に大事にしていきたいと思いました。

ネパールで手に入れたショールの表面は👇こんな感じ。

そして、ショールの裏面はこんな感じ👇です。

どう見ても、これは機械には成しえない技だと思いませんか?

こうして、

パキスタンのショール文化を愛するが故に

「ショールのことをちゃんと学びなさい」と働きかけてくれた店主さんのおかげで

私は幸運にも、大好きだった「ショール」について

今まで知らなかった沢山のことを学ぶことが出来ました。

そして、同時に、過去を振り返り

私自身の「風になびく布」とのつながりも見つめなおす機会をいただきました。


店主が語って下さったお話は

決して、ショールの美しさや豊かさ、価値についてのお話だけではなく

時代の流れによって変容を余儀なくされてきた

ショールの歴史と現状についての学びでもありました。

これまで全く考えが及びませんでしたが

私達の生活のあらゆる場面で見られる

機械化・大量生産の進展、

手仕事の衰退が

ショールの世界でも起こっているということを改めて知りました。


娘が嫁ぐ時、嫁入り道具の一つとして用意されたり

代々女性の世代間で受け継がれていったり

時には家宝のようなコレクションの対象として

パキスタンの裕福な方々が求めるという

伝統的なカシミールショール。

店主曰く、

「パキスタン人は宝飾品とショールに財を費やす」ほど

本物のカシミールショールは、

貴重な文化財なのだということを教えられました。

さて、かなり長くなってしまいましたが

最後に。。。

これまた店主さんが教えて下さった

「お宝ショール」に隠されたある「秘密」についてお伝えして

ショールについての語りを終えたいと思います。

その「秘密」とは、

全面刺繍入りSozniショールには

「必ず作者により、意図的に間違いが加えられている」ということです。


以前アメリカンキルトをかじった時にも、

同じようなことを耳にしたことがあったのですが。。。

どうして「間違いを加える」かわかりますか?


そこには、大いなる存在の前にひれ伏す

小さな存在としての謙虚な人間の姿勢が表現されているのです。

人間の手により、どんなに素晴らしい作品が創造されたとしても

それは、「大いなる存在や自然を前には、完璧ではあり得ない」

という考えを反映して

敢えて作者により、作品に不完全性が埋め込まれるのです。


では、私が見せていただいたショールの写真を再度アップしますね。

この中の「間違い」を見つけられますか?

答えをお伝えする前に。。。

せっかくなので、このお宝ショールの表裏と詳細な部分の写真を

まとめて👇ご披露しますね✨

手仕事であるが故に、作品の中には

すでに細かく不揃いな部分が多くあり

それが職人さんの手によって創造されているショールの

味わいと価値になっていると思うのですが。。。

私が発見出来た、意図的な間違いは👇でした。

こうして拡大すると、少しわかりにくいかもしれませんが

ショール左右中央の「ボテ」の色が異なるのです😊

左側の色が濃いワイン色で、右側は薄い色になっているのがわかりますか?

これは、一つの例ですが、

もしかすると、この緻密で繊細なデザインの中には

もっと多くの「間違い」が刻み込まれているかもしれませんね😊

それにしても、このショールの刺繍は気が遠くなるほど細かいですね。

一人の職人さんが2~3年かけて仕上げた作品だそうです。

そんな職人さんの大切な時が刻まれたショールを手に入れるということは

そこに、その人の人生をも背負うような重みも含まれていて

どんなに素敵でも、大きな責任と義務を負うように感じるのは

私だけでしょうか?

パキスタンショール文化は、

店主さんが仰る通り、知れば知るほど

奥が深くて素敵ですね~✨