♥Heart print♥
ここしばらく、少し気持ちが沈んでいました。
そして、その気持ちと向き合っていました。
まだ終息からほど遠い地球規模のコロナ禍のニュース。
コロナの影響で仕事、家、職、家族を失い苦しみの中にある人達のストーリー。
この未知のウィルスに対する各国の施策、感染者数と死者数。
日本での感染者数が抑えられていることの不思議と疑念。
日々ニュースを追いながら
自分自身は何の過不足も無い生活を過ごすことが出来ていることに、感謝し
恵まれている場所にいられる立場を与えられているなら、
せめて前向きに明るく、そして健康でいよう。
不平不満を言わないで、どんなに小さくても感染を抑えるための協力をしていこう。
自分に出来ることがあれば、どんなに少なくても、自分なりに出来ることをしよう。
そんな風に思って生活をしてきました。
けれども、私自身も全く不安が無いわけでもなく。。。
平気なふりをすることに少し疲れてきていました。
不満は何もないけれど、やっぱり心がざわざわしていることは否めず。。。
心の疲れに気づき始めたところに、
高校時代に生活をしていたチリの恩師から☟が送られてきました。
本を読むのは好きなのに、書く時には手を抜く高校時代の先生。
20年近くずっと疎遠になっていたけれど、
友人を介して数年前に再びつながった恩師。
ここ数年は、忘れたころに、
SNSで写真やビデオ、文章を書く代わりにボイスメッセージが送られてきていました。
いつも突然連絡が来て、
言葉が少ないから、行間、写真、声のトーンから
その時の彼の意図と状態を想像しながら、コミュニケーションをとってきた先生。
そんな先生が送ってきたセピア色の写真に
すぐに「素敵な女性の写真!!」とは思ったけれど。。。
何も説明がないから
「なんなんだろう???」
けれども、その写真の女性から、彼の意図を理解しないといけないから、
手を止めて、もう一度落ち着いて写真を見直してみたら。。。
写真に映っている女優さんのような若くて美しい人は、
若き日の先生の奥様のMarite。
よくよく見ると、彼女が亡くなったことを知らせるご案内でした。
たった一枚の写真と、そこに書かれている少ない言葉を読み
写真の意味を理解した途端、
これまでの自分の中の心の踏ん張りの支柱が崩れてしまいました。
写真のところにはスペイン語で
”Lo esencial es invisible a los ojos”。
英語ならば、”What is essencial is invisible to the eyes.”
日本語では、「大切なことは目に見えない」と書かれています。
私も大好きな「星の王子様」の一節。
そして、その下には、
「Una mujer fuerte, valiente, justa y luchadora. Un ejemplo de vida」
訳すとすれば、
「強く、勇敢で、正義感があり、闘志あふれる女性。
人生の一つのお手本。」
と書かれています。
たった一枚の写真と数行の言葉。
それなのに、彼女への深い愛情が溢れる一枚。
胸がいっぱいになりました。
私の恩師は、中高時代の社会と歴史の先生。
若い頃はヒッピーのように南米を旅行し
Mariteとの出会いをきっかけにチリに流れ着いたアメリカ人。
結構口が悪いので、授業中もクラスの外でもよく彼と議論をしました。
学生時代、生真面目だった私は、
修学旅行の引率に来ているのに、
先生がちゃんと引率をしないから、逆に先生を説教しに行ったりして。。。
よく言い争っていました。
そうこうしているうちに、とても仲良くなって、
先生のTeacher's aideとして、
彼の教室にポスターを作ったりするお手伝いをするようになりました。
日本とは違って、先生と生徒だけれども、
いつしかその立場を越えて、一人の人間として「お友達」になっていました。
現地採用の先生として働いていた先生。
本国採用の先生とは給与額の桁が違い、
家族の生活を支えるために、Mariteも学校の図書館で働いていました。
彼女の笑顔を見ると落ち着くから、
心がざわつく時には、
授業の合間によく彼女に会いに図書館に行ったりしていました。
高校を卒業して日本に帰国して10年経った頃
チリを訪問する機会があった時にも
お家によんでいただいて、
私が在学中に生まれた息子さんのバイオリンをきかせてもらい
生まれたばかりの娘さんを抱かせてもらいました。
それからまた20年近く経った2016年、高校の同窓会で再度チリを訪問した際は、
先生と再会し、奥さんのMariteにもお会いすることが出来ました。
ただ、その時は、「条件つき」で本の短い時間だけお家を訪問させてもらいました。
その「条件」とは、Mariteが日課の散歩から帰宅するまで、静かに家で待つこと。
帰ってきた気配がしても、決して飛び出さないで、彼女が家に入るまで中で待っていること。
一緒に食事をしたのに、Mariteのことをあまり話したがらなかった先生が、
ようやく口を開いた時には次のようなことを聞かされました。
数年前から彼女が認知症を患っているということ。
そして、日毎に状態が悪化していて、日課のお散歩をしていても、
既に幾度か迷子になって家に帰れなくなったことがあること。
毎日先生が奥様のお洋服を選んで用意してあげなくてはいけないこと。
日毎に介助が必要なことが増えていること。
夫婦関係の質がすっかり変わってしまったことに、時にはとても疲れてしまうこと。
そんな状態だから、長い長い年月を経て訪問した私を、
彼女が認識するかどうかわからないこと。
例えそうであっても、ショックを受けないで欲しいということ。
そう聞かされて、
かなりドキドキしながら、乱れる心を静め
しばらくお家の中でMariteを待っていると。。。
すっかり白髪になった彼女が、涼やかなサマードレスを着てお家に帰ってきました。
お家に入ってきて、そこに私を発見した彼女は
昔と変わらぬ、それはそれは温かい笑顔ですぐに私のところに歩いてきて
強く強く抱きしめてくれました。
私の名前は思い出せなかったけれど
私の存在が彼女の記憶のどこかに確かに残っていたことを知った時は
言葉にならない安堵感と喜びで満たされたました。
その後、彼らは息子さんのお家で夕食の予定があったので
そこから歩いて30分ほどの友人宅に戻る道順を先生にきき、
お別れを言ったら。。。
いくら私がもう大人で、一人でも帰れることを先生が説明しても
「駄目よ。この子を一人で帰したら駄目よ。いいから車で送ってあげましょう。」
とMariteが頑として譲らなくて、
結局、たった数ブロックの道のりを二人で見送ってくれました。
車の窓越しにお別れの挨拶をした時の二人の笑顔は
少し年を重ねていたけれども、昔と変わらない優しい笑顔で
今でも鮮明に覚えています。
以降は、時々先生と季節の写真や短い近況報告メッセージを交換してきました。
Mariteの状態が悪化していることは、
家族にMariteを預けて、週末だけ息抜きに出ていることを知らせてくる先生の様子
先生からのボイスメッセージの声
たまに先生の口からぽろっとこぼれる愚痴
から察することが出来ました。
けれども、地球の裏側にいる私は、ただ聴くことと
受け止めることしか出来ないことをもどかしく感じながら、
ただ、先生ご一家の幸せを祈ってきました。
一時、しばらく音沙汰が無いと思ったら
突然、Mariteをホームに入れたことを知らされました。
その後は、あまり連絡が来なくなり。。。
きっと先生もMariteもあまり良い状態じゃないのだろうと想像していましたが。。。
今回突然送られてきた一枚の写真。
自分がこんなにも動揺するとは思っていませんでした。
すごく悲しくて
胸に握りこぶしをギューッと握っている感覚。
けれでも、他方ではなぜか胸の中がとってもあったかくて。。。
日本からチリは果てしなく遠い国だけれど、
自分の胸の中に沸き起こった思いと向き合い、それに素直に従いたくて
友人に手伝ってもらい、先生にお花とメッセージを送ることにしました。
「急がないから、いつでもいいからお花が届くようにして欲しい」。
日本の夜中に先生とご家族へのメッセージを書き終え、友人に託し
「ダメかもしれないけれど、可能なら白百合を届けて欲しい」と私の希望を伝え
その日は眠りにつきました。
翌朝5:45、枕元にあった携帯の振動で目覚め
開いてみると、そこには先生からのお礼の言葉と、この写真がありました。
私が眠っている間に、友人が現地のお花屋さんに連絡し、
希望通りの白百合が入った花かごを用意し、早速先生に届けてくれたのでした♥
遠い国にいる先生と、実際に目に見える形でつながれた感覚。
そして、それがいかに私にとって大切なことかを察して、急いで実現してくれた友人がいること。
そんなことに、幸せを噛み締め、胸がじ~んとしてしまいました。
それにしても、飛行機なら乗り継ぎながら、36時間以上かけてしかいけない地球の裏側の国に、
寝ている間に、お花を届けられるなんて。。。
インターネットが無い時代にチリで暮らした者としては、
本当に驚きました。
もう30年以上も前に出会った高校時代の恩師ご夫妻。
チリを離れてからの何十年もの間に、たった2回だけ、
それも実質的には数時間しか会っていないのに
送られてきた一枚の写真を眺めながら
胸の深い深いところに自分でも驚くような強い痛みを感じました。
大切な気持ちだから、しばらくその感情に浸っていました。
そうしたら、よ~くわかったことがあります。
人生のいつの時期であっても
例えそれが遠い過去のことであっても
確かに心の深淵な部分が一度でも触れ合った人とは
どんなに時が流れ、どんなに疎遠になってしまっていたとしても
しっかりと魂でつながり続けている
ということを😊
”Wherever you go leave a heart print”
(どこに行っても(あしあとならぬ)「心あと👣」を残しなさい。)
という言葉が好きで、ずっと英語教室に飾っていました。
今回、沸き起こる様々な感情と向き合いながら、この言葉を思い出しました。
例え晩年は病で以前とは違う人になってしまっていたとしても
Mariteは、当の私も気づいていなかったすごく大きなHeart print、「心あと👣」を私の中に残していたこと。
そして、症状が進行していく時期、突然訪問した私の存在を思い出した彼女の中に
きっと私も「心あと👣」をちゃんと残していたのだろうということ。
”Lo esencial es invisible a los ojos”。
「大切なことは目に見えない」
この世を去る時、
家族の深い深い愛情がまっすぐに伝わってくる一枚の写真と、
こんな素敵な言葉で見送ってもらえるなんて。。。
数日間、先生との出会い、そしてMariteから受けた沢山の愛情と彼女の笑顔の♥Heart print♥を思い出していました。
それは、かなり胸の痛みを伴ったけれど、幸せな時間でもありました。
そんな大切な人と学生時代に出会えたことを感謝しつつ、
これからもMariteが私の中に残した♥Hear print♥を抱いていこうと思います。