不思議な導き⑥ ( ❤商売っ気の無い店主たち❤その1)

最近、パキスタンを更に好きになる

胸きゅんの出会いが立て続けにありました。

少し長くなりそうなので、

その出会いにまつわるエピソードを、⓺、⓻、⓼の3回完結で記しました。



全てのきっかけは「寒い季節に向けての備え」




10月に入り、日本では急に寒さが増したと耳にしましたが

ここイスラマバードでも、

10月中旬頃から朝晩肌寒くなってきました。

パキスタンで迎える始めての冬。

日本からやってくる時にはほとんど冬物を持ってこなかったので

しばらく前から、寒さ対策がとても気になり

色々とリサーチしていました。




こちらでは、冬場も女性は、長いシャツ、パンツ、ショールという

シャルカミの3点セットを着るようです。

また、季節が変わっても、素材が少し厚手の綿ぽいものに変わる程度で

特にウール混の温かい素材があるわけでもないようです。

暖かめのおしゃれ着として、ベルベット生地があるようですが、

今後日本に帰ってからも生かせるお洋服と考えると

ベルベットを使ってのデザインイメージが正直浮かびません。




バングラデシュの冬は、

寒い期間が短かったのであまり悩むことはなかったのですが

ネパールの寒い季節によく見かけたのは、

シャルカミにカーディガンやジャケットを着て

暖かそうな毛のショールを羽織る装い。




調べていくうちに、ここパキスタンでも、

どうやら冬場は暖かいショールが必需品になりそうだとわかりました。

そこで、冬支度にはちょっと早めの9月、

街にあるショール屋さんを覗きにいきました。




たまたまネットでカシミール地方の伝統的な織物

「カニ織」という織物があることを知り

是非その「カニ織」のショールの実物を見てみたいと思ったのが

そのショール屋さんを訪れたきっかけでした。




お店に入り、「カニ織のショールをみたいの」というと

店員さんが、カラフルなショールを出してきてくれました。

色彩豊かでポップで楽しいけれども

どうも私のお目当ての

長い月日をかけて丁寧に織ったショールには見えない。

ショールを眺めながら、納得がいかず

「・・・???」

すると、後方から一人の男性が話しかけてきました。




「それは大量生産のショールだ。

最近は『カニ織』のデザインを機械織で仕上げて、安価で販売しているのだ。

毎シーズン新しい色合いで生産し、

使い捨てのファストファッションの様なショールだ。



せっかくパキスタンでショールを買うなら、

まずショールのことをちゃんと学んでからにしなさい。

そして、その上で、質の良いものを1~2枚買うべきだ。

『カニ織』も、沢山の文献が出ているほど奥が深いんだ。

一言でショールと言ってもピンキリなんだよ。

それを知らないでショールに手を出してはいけない。

パキスタンには本当に豊かなショール文化があるんだ。」



「いや、私はたまたまネットで『カニ織』の存在を知ったから

その実物を見たかったの。

それに、もうすぐ寒い季節が来るから

イスラマバートでは、どんなショールが手に入るのかを知りたくて来たの。

私も何でも良いわけではないわ。」





「先日もイタリア人マダム達に招かれて、ショールについての講義をしたが

ショールは奥が深いんだよ。

ちゃんと色々見て学びなさい。

パキスタンのお金持ちは、宝飾品と同じようにショールにお金を使うんだよ。

それほど質の良いショールには価値があるんだよ。」



「そうなんですか? 

ショールについての講義、私も是非ききたいです。

そんな財を費やすようなショールがあるんですか?」



「そうだよ。本当に良いショールというのは

代々受け継がれていくような芸術品でもあるんだよ。

おばあさんから娘へ、娘から孫へ。

それがパキスタンのショールの文化なんだよ。

ちゃんとそういうことを学んでからショールを選びなさい。」



「はい。私ももっとショールのことを知りたいです。

だから、貴方のお話が聞きたいです!!」



「それなら、時間がある時に戻ってきなさい。

実物を見せながら話してあげるから。」



「私、時間なら、今日だってたっぷりあります。」



「そうか。ならばこの店ではなく、

向かい側にもう一軒私の店がある。

そこに良いショールを置いてあるから

そっちに行って待ってなさい。

今はまだシーズン前だから、そう忙しくないんだ。」



「本当ですか?

でも、貴方のお時間をいただいていいんですか?」



「大丈夫だから、行って待ってなさい。」



「わかりました!!」



別の店舗で待っていると

しばらくしてその店主がやってきました。



そこからゆっくりと

・ 本物の「カニ織」について

・ 「カニ織」職人の現状

・  ここ20年間のショールの原材料の質の変化

・ パシュミナとカシミアについて

・ ウールをカシミアに似せて柔らかくする技術革新のこと

・ ショールには、織物以外にも機械刺繍、手刺繍のものがあること

・ カシミールの刺繍の種類

・ カシミール地方のショールがヨーロッパに渡り、どう発展したか

などなど、ショールについて、沢山のお話をきかせて下さいました。




軽いウインドウショッピングのつもりが

店主から、ショールのお話をうかがっているうちに

気づけば2時間以上が経過していました。



そして、その長いお話の最後に

パキスタンの富裕層の人々が家宝のように求めていく

カシミール地方の手刺繍のショールがどのようなものか見せていただきました。



目の前に登場したショールは

一人の職人さんが2~3年かけて手刺繍したという

美術品といってもおかしくない作品。

目に入った途端、文字通り鳥肌が立ちました。

その日、その時、全く心の準備も予備知識もない状態だった私は

その素晴らしさに言葉を失い、ただ圧倒されて

しばらく夢心地でそのショールを眺めることしか出来ませんでした。



そのショールの美しさ、気品、威厳は

簡単に言葉で形容出来る類のものではなかったのです。



店主から沢山のショールについてのウンチクを伺い

そんなお宝ショールを見せていただいた後は

当初そのお店を訪れた目的も、すっかりどこへやら。

その日は、この店主と最上級のショールとの出会いに

ただただ感謝して帰宅したのでした。

(★実際のショールの画像は、⑧に掲載しました。)

こうして「寒い季節に向けての備え」としての

ショール屋さん訪問は、

パキスタンのショール文化を愛する店主により

お買い物の機会というよりは、

急遽、特別な学びの時へと変容したのでした。

店主のお蔭で、沢山のショールの知識は得られましたが

逆にお話をうかがってからは

軽率にショールに手を出せない身になってしまいました。



それでも寒さはやってくるわけで。。。

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